ノーベル賞受賞者らが深刻に受け止めるべき問題として基礎研究の重要性を挙げていますが、基礎研究や研究環境を整える事もさることながら、地道な研究が支えている分野もたくさんあります。環境問題は甚大な公害による被害を契機に様々な研究とその成果を基に法整備が進み、施策が実施されて著しい改善を見ました。公害という言葉を知らない世代も増えていますが、私たちを取り巻く環境問題は複雑さを増しており、環境問題に関する教育と研究の重要性に変わりはありませんし無関心が環境に関係する問題の最大の敵ではないでしょうか。
環境問題への適切な対応は個人の教育と環境に対する理解が必要です。理解を深めていく過程で生じる素朴な疑問やいろいろな場面での誤解等に基づく指摘もでてきます。そこで、こういう場面で考え、答えをだしていくにはどのような基礎的な理解や解釈、考え方の表現方法があるとよいのかを示す例をQ&Aとして挙げてみました。QをクリックするとAが見られます。
最適な解はありませんが、疑問点の解決やどう考えたらよいか考えるための参考となればよいと思います。
また、皆さまからの質問も受け付けておりますのでこちらより投稿をお願いします。可能な限りお答えしたいと思います。
焼却に伴い非意図的に発生するダイオキシンが話題になり一斉に焼却施設が改善された事は過去の記録となりました。これを機会に環境中の極微量物質を精密で精確に測定する為の機器と方法が普及し、定期的な監視に繋がり安全を保証できるようになりました。また、難分解性で危険性が高い残留性有機汚染物質(POPs)は、国際条約により対応が促されています。例えば、PFOSは国内での製造と使用が禁止、PFOAは製造と移動の許可が必要になりましたが、代替品が見つからない用途では継続使用されています。極微量でも発がんリスクが高いPFOSやPFOAは、飲み水を経由や生体内濃縮を通じて人体に取り込まれます。そこで、基準値が決まると定期的に調査する事となり汚染発生や排出状況が把握できるようになります。
排ガス中のPOPsとしてはPCB、ダイオキシン様PCBsやPCNs等は環境省が測定方法のマニュアルを作成して監視に使えるよう整備していますが、まだ、定期的な監視義務はありません。
極微量物質への注意は個人で対応する事は難しく、行政が対応するように働きかける事と、同時に極微量物質の測定方法や、測定機器の開発状況などに関心を持つ事で、危険性が高い環境中の極微量物質を測定する為の研究開発の支援に繋がり、安全・安心な生活が確保されるようになるのではないでしょうか。(前田恒昭)
施策の効果を見るという目的で環境基準や排出基準が設定されている項目を監視する事は行政の対応で済みますが、地域に特有の環境や汚染状況は研究所がしっかりと把握して行政に提言しないと施策の効果を評価したり効果を上げて地域住民の安全と健康を守る事が出来ません。この為には、専門知識を持つ研究者が活動する場として研究所が必要になります。研究所の役割の一つとして、効率のよい施策を立案・実施する為の提言を行う事で地域住民へのサービス向上が図れるのではないでしょうか。行政と連携し、広報活動を通じて研究所の役割に対する説明やと住民への理解を求める事も必要ではないでしょうか。(前田恒昭)
環境問題には国境も都道府県の境もありません。特に大気環境は閉鎖空間が設定できないので、おのずと近隣や広い範囲での影響評価や知見を集め意見交換する事になります。広い視野を持って取り組む事で、地域の固有の問題や特性が明確になり、施策やその効果の評価を行う事ができるようになります。この為には専門知識を持つ研究者を有する研究所が必要で、研究者が大学や他の研究機関と共同研究や情報交換を行っていく事でより良い環境を得る事に繋がるのではないでしょうか。研究者からの情報発信や行政が研究成果を活用できるような場を用意していく事も大切ではないでしょうか。かつては、国立環境研究所や大学と地方の研究所との間で国内留学する仕組みもありました。(前田恒昭)
科学的根拠とは何でしょう。現在得られている知識の範囲で示されるそれらしい科学的物語を展開する為の基礎情報の一つではないでしょうか。真実は誰もわからないし絶対という事もないので、知識を基に物語を語る人により展開が異なる事は当然です。科学的根拠とされている事も、研究が進むと理解や解釈も異なってきます。最善を尽くしても変更せざるを得ない事も多々あります。ここで必要な事は、「現在得られている知識から最善と思われる解釈を基にした」、という事が「科学的根拠に基づく」という事の言い換えになります。ここで、すべてが解明されるまで何もしないか、現在の知見で最善と思われる活動を取るかというという選択が出てきます。もちろん、もうしばらく待ち、研究活動を継続して行う事により、より新しい知識を得てより良い解釈ができるようになってから行動に移るという選択肢もあります。このように理解すると、何もしないよりも、曖昧性と将来の変更を受け容れるという許容幅をもたせた上で、現在の科学的知見を基に取りうる最善の政策・対策をとるという事も大事であることが理解できます。一旦研究をやめてしまうと科学的根拠とする為の知識の集積も途絶えてしまう事の重要性も理解できるのではないでしょうか。(前田恒昭)
地球温暖化やエネルギー問題は話題になりますが、それ以外の報道されない環境問題は解決を見たのでしょうか。報道は、視聴者・読者らの情報を受ける側が興味を引く話題を提供する傾向にあります。特に、はじめての部分は関心が高くニュース性があるのでこぞって報道する傾向にありますが、終わりまできちんと経過を示して報道する事は少ないのではないでしょうか。環境問題のように、初めて問題となった時には大々的に取り上げられても、すぐに解決できず継続して取り組んでいかなければならないような場合は、時々のトピックスがあれば報道で取り上げてもらえますが、徐々に改善に向かっているような内容はニュース性が乏しく取り上げられることはまれではないでしょうか。
継続して取り組んで地道な努力を続けている問題の一つに、光化学オゾンの被害低減や、有害大気汚染物質による健康リスク低減の取り組み、微少粒子状物質による健康リスクの評価と影響軽減の取り組みなどがあります。最後の微少粒子状物質の話題は一時期に比べるとずいぶん報道される事が少なくなりましたが、問題が解決したわけではありません。環境影響を評価するには長期にわたる観測や、新しい解釈を基に政策の見直しなどを行っていく為の研究は欠かせません。
長期にわたる観測と結果の利用は基礎研究としての位置づけが必要な分野です。話題が提供されなくなったからといって継続した調査・研究をやめてしまう事がないようにして、環境問題を忘れないようにするにはどうしたらよいでしょうか。(前田恒昭)
PM2.5の環境基準は各測定局での観測濃度に基づいて2つの条件から判断されます。1つは年平均値が15μg/m3以下であること、もう1つは、1日平均値が35μg/m3以下であることです。環境基準とは別に、2013年初頭にPM2.5が報道等で大きく取り上げられた事態を受けて、環境省が同年2月に開催したPM2.5専門家会合の報告に基づき、PM2.5の日平均値が暫定指針値を超えると予測される日に各地方公共団体が注意喚起を行う為にPM2.5の暫定的な指針となる値(以下「暫定指針値」、日平均値70μg/m3)を定めました。詳細な運用は都道府県で定めていますが、共通する事は、(1)屋外での長時間の激しい運動や外出を減らしてください。(2)換気や窓の開閉は必要最低限にしてください。(3)呼吸器系や循環器系に疾患のある方、子供や高齢者の方はより影響を受けやすい可能性があるので、体調の変化に注意してください。という3点です。注意喚起のための暫定的な指針は5時~7時の値を使う午前中の早めの判断を促す数字と5時~12時の値を使って午後からの活動に備えた判断を促すようになっています。暫定指針値は1日の平均値なので、本日測定して得られた一時間値が環境基準値を超えそうというのは正しい表現ではありません。一時間値の予測から「暫定指針値を超えそう」という事は言えるので、この報道は暫定指針値を超え被害が出そうなので注意喚起を促すものですね。
PM2.5の警戒情報については、気象データと組み合わせて翌日暫定指針値を超えるかもしれないという予報が出されています。PM2.5の注意喚起の判断のむずかしさは、その基準が日平均値に基づいていることにあります。つまり、日平均値が70μg/m3を超えるかを判断することは、24時間分の積算値が1680(=70×24)μg/m3を超えるかどうかを判断することです。午前中にいくら低濃度が続いても、午後になって高濃度が続けば日平均値が暫定指針値を超える可能性はありますし、逆に午前中に高濃度が続いても、(その積算値が1680μg/m3を超えて注意喚起の必要性が確定する場合を除き)それ以降ほぼゼロの濃度が続く可能性は否定できません。そのため、一時間値から数値予測の精度を改良し、注意喚起の判断を正確に行えるような研究が進められています(一部国立環境研の環境儀No.64の文を引用)。(前田恒昭)
白煙は水蒸気、有害化学物質は排出基準値以下になるよう抑制し監視しているので安全?(前田恒昭)
排出源が太平洋側には無く、あってもとても離れているので監視しなくてもよい?(前田恒昭)